《MUMEI》

わたしは、出来るだけ、ひとりで外出するように心がけた。


わたしだって、もう25歳なのだ。


普通なら、ひとり立ちしている年頃なのに、親や、お姉ちゃんにべったりというわけにもいかなかった。
5年間、まわり道したぶんだけ、わたしは頑張らなければならないのだ。


わたしは車椅子をこいで、病院近くのコンビニにむかった。


コンビニにつくと、まえのときみたいに、わたしはガラスに張りつくようにして店内をながめた。

でも、やっぱり柊はいなかった。


今日も、休み?

また、具合でも、悪いのだろうか…。


考えをめぐらせていると。

店の奥で、商品の整理をしていた、女子店員が、わたしの姿に気づき、あ!と驚いたような顔をした。わたしはすこし戸惑う。

彼女は、パタパタと店の外まで走ってきて、わたしの目の前に立ちはだかった。

背がひくく、かわいらしい感じのひとだった。まだ、学生だろうか。あどけない感じがした。彼女の左胸には、『ヒラサワ』と書かれたネームバッチがつけられていた。

彼女−−ヒラサワさんは、すこし戸惑ったようにわたしを見つめて、あのぅ…と、呟いた。


「榊原の、お知り合い、ですか…?」


わたしは瞬き、ええ、と返事をしながら、なぜこの子は、わたしが柊の知り合いだとわかったのだろう、とおもった。

ヒラサワさんは、表情を曇らせて、お話はすこしだけ聞いてます、と言った。


「彼、つらかったみたいです。ずっとあなたのそばで、ずっとあなたを看病していて…」


わたしは表情を変えず、黙っていた。けれど、頭の中は、ぐちゃぐちゃだった。


なぜ、柊は、この子にわたしの話をしていたのか。

なぜ、彼女の口から、柊がつらかったみたいだ、と聞かされなければならないのか。


なぜ…。



急に、遠くから、お姉ちゃんに言われた言葉が聞こえてきた。


−−あの子に頼っちゃ、ダメ……あの子には、あの子の人生が…。




ああ、なるほど。

そういう、ことか…………。




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