《MUMEI》 わたしは、涙を流していた。 嗚咽しながら、それでも車椅子を動かしつづけて、たどり着いたのは。 あの、交差点−−−。 わたしは、ぼんやりと、信号を見上げた。 青いランプが点灯している。 視界がにじんだ。それが、雨のせいなのか、それとも涙のせいなのか、わからなかった。 信号が点滅し、やがて、赤に変わる。 そのとき。 記憶の彼方から、甲高い、ブレーキ音が頭の中に、響いてきた−−−−。 −−…なんで? −−潤には悪いとおもうけど、柊と予定が合うの、その日しかなくって…こんどの試合は、絶対行くから! −−テキトーなこと、言うなよ!!なんで栞は、いつもそうなんだよ!?柊、柊って、馬鹿みたいにさ、兄さんのことばっかり…もう、ウンザリなんだよ!! 真実か、偽りか、夢か、現実か…。 うすれゆく意識の中、 駆けよってくる、その人影を見た……。 −−−ああ、あれは。 そのひとは、車椅子に座ったわたしのからだをきつく抱き寄せた。そして、やっぱり違う、とおもった。 そのひとの腕の中で、わたしは目を伏せ、ごめんなさい…と、呟いた。 ごめんなさい、わたしのせいで…。 睫毛の間から温かい涙が一筋、こぼれた、気がした。 ◆◆◆◆◆◆ 前へ |次へ |
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