《MUMEI》
サイレン
「こんな感じで良かったっけ…?」
覚束ない手つきで、それでも懸命に処置をする。
見た目も程々に、包帯はしっかりと男の止血の役割を果たしているようだった。
「傷、思った程深くなくて良かった…。」
静かに寝息を立てる男を見下ろしながら、加奈子は安堵の溜め息をつく。
もう夜も深まっている。
取り敢えず止血はしたし、今は安静にさせて、明日の朝病院に連れて行っても大丈夫だろう…
加奈子は雨と男の血で汚れた服を脱ぎ棄てると、シャワーを浴びる為、脱衣所に向かった。
外はまだ雨が激しく降っている。
その中にパトカーのサイレンのような音が微かに混ざっているのが聞こえた。
「まさか、ね…。」
眠っている男を振り返り見る。
一瞬過ぎる悪い予感。
「今のご時世、サイレンなんて珍しいモノじゃないんだし…」
この男を探しているのではないかという考えが頭を掠めたが、気付かない振りをした。
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