《MUMEI》

潤の試合の日は、ちょうど講義も休みだったので、わたしはふたつ返事で、OKした。


わたしの答えに、潤は、とてもうれしそうに、満面の笑顔を見せた。

久しぶりに見た、潤の明るい笑顔だった……。




それを、壊したのは…。









雨の中、傘もささずに外出したことが祟ったのか、わたしは熱を出し、2日間ほど寝込んでしまった。


家を出て、一人暮らしをしているお姉ちゃんが、知らせを聞いて、わたしの見舞いにやって来た。

その頃にはすっかり具合も良くなっていたわたしは、ベッドの上で半身をおこし、むかしお母さんにもらった花の図鑑を読んでいた。

お姉ちゃんはわたしの姿を見るなり、あきれたように、ため息をついた。


「ほんとうに馬鹿ね…雨のときには傘をさすって、子供だってわかるわよ」


わたしはお姉ちゃんの顔を見て、わかってるよ、と答えた。お姉ちゃんは腕を組んで、つづける。

「25にもなって、ひとさまに迷惑かけるんじゃないわよ」

わたしは軽く、はぁい、と返事をする。お姉ちゃんは、まったく…と深いため息をついて、小さなバッグの中から、クリアファイルを取り出して、わたしに差し出した。


「頼まれてたやつ、出来たから持ってきた」


クリアファイルの中には、押し花になった、白詰草があった。

わたしが眠りから目覚めたころ、柊が、わたしに、つみとってくれたものだ。


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