《MUMEI》 わたしはファイルを受け取り、白詰草をじっとながめた。花は柊からもらったときよりも、すこし、色あせていた。 いつの間にか、長い夏が、終わろうとしていた………。 ◆◆◆◆◆◆ 闇の深淵。 雨が降る中、わたしは走っていた。 交差点までやって来ると、道路のむこう側に潤の姿を見つけた。 わたしは駆け足で、広い道路を渡りはじめた。 そして、甲高いブレーキの音に立ちすくみ、動けなくなる。 車のヘッドライトが、闇を切り裂き、 立ち尽くしたわたしは、《だれか》に抱きしめられ、 そして………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。 倒れ込むわたしのからだに、まわされた、その腕が、動くことは、なかった。 急速になくなっていく、温もり。 かすむ視界にうつった、ものは。 濡れたアスファルトの上、 砕けちった、レンズの破片に囲まれている、 みにくく歪んでしまった、黒い、セルフレームの−−−−。 その夜、 わたしは、泣いた。 白詰草の押し花を抱きしめながら、ひたすら泣いた。 5年まえの、あの、交差点から、 わたしはようやく、歩きはじめたのだ−−−。 ◆◆◆◆◆◆ 前へ |次へ |
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