《MUMEI》
紳士?
千夏は砂浜を歩きながら、美沙子たちを探した。しかし、携帯電話もないのに連絡の取りようがない。
「どうしよう」
昔の人は、携帯電話なしにどうやって生活していたのか。そんなことを考えていたら、またチンピラ3人組と遭遇してしまった。
「ヤバ」
「おおお!」
千夏は逃げた。
「待てよ」
囲まれてしまった。千夏は胸の鼓動が激しく高鳴る。
「やっぱり社員旅行なんて嘘じゃねえか」
「嘘じゃありませんよ」
「いいから俺たちと遊ぼうぜ」
「失礼します…あっ」
腕を掴まれた。
「大きい声出しますよ」
「大きい声出したら水着取っちゃうよ」
千夏は怯んだ。そんなことされたらたまらない。
「俺ら悪いけど紳士だよ」
「メシ食うだけだからさあ。ご馳走するよもちろん」
「まず手を離してくれますか?」
「行くと約束したら離してあげる」
千夏は膝が震えた。この男たちに盗難の話をしたら、助けてあげる代わりに見返りを要求してくるだろう。
「君名前何て言うの?」
「かわいいから誘ってんだよ」
「それとも赤っ恥かきたい?」
いきなり水着に手をかけてきた。
「やめてください」
男たちは面白がって水着の紐を引っ張る。
「ちょっと、やめてください!」
「かわいい。ビビってる」
「裸にして慌てふためく姿も見てみたいな」
ナンパがダメだと見るや脅しをかけてくる。最低最悪だ。
「キャア…ちょっと、やめてって言ってるでしょう!」
「何その態度?」
「やっちゃおうか、こいつ?」
「やっちゃう?」
淫らな笑顔で迫って来た。千夏は弱気な顔で両手を出した。
「待ってください、わかったから」
「何がわかったんだよ?」
「食事だけですよね?」
男たちの表情が動いた。
「そうだよ、食事するだけだよ」
「絶対変なことしないって約束してくれますか?」
「するする」
「大丈夫だよ、俺らそんな悪いヤツじゃねーし」
千夏は辺りを見渡した。小麦色の逞しい男性が目に入った。
「では、上司に言ってきますから、待っててくれますか?」
「おまえまだそんなこと言ってんの?」
「もうとっくに嘘バレてんだよ」
「嘘なんか言ってませんよ。だってあの人課長だもん」
「え?」
「課長!」
千夏は小麦色の男に手を振りながら近づいていく。男性は驚いて千夏を見た。
千夏はウインクを繰り返しながら言った。
「課長、あの人たちに食事誘われちゃったんですけど、ミーティングサボって行ってもいいですか?」
「ミーティング?」
千夏は小声で言った。
「お願いです。助けてください」
そこへ妻らしき女性が登場。
「何してんの?」
「あ、いや…」男は慌てる。
「行きましょう」
「でも助けてって」
「ダメよ騙されちゃ」
女性は千夏を睨むと、男の手を引いて行ってしまった。
後ろからゲラゲラと嘲笑が聞こえる。
「おまえ何逆ナン失敗してんの?」
「逆ナンなんかしてませんよ!」
「いいから俺たちにしとけって」
千夏はまた辺りを見回した。最後のチャンスだ。40歳くらいの紳士が目に入った。
服を着ている。もう帰るところか。スマートなダンディ。悪くない。
若い男はガッついているから、助けを求めるのは危険だ。すぐに見返りを期待する。だから年上の紳士でないと怖い。
千夏はまたキュートなスマイルで紳士に手を振った。
「社長!」
「ん?」
「あの人たちに食事誘われちゃったんですけど、ミーティングサボってもいいですか?」
「ダメだよ。だって君資料配る役目じゃん」
「でも、そんなのだれでもできるじゃないですか」
「君会社舐めてんの。遊びじゃないんだよ。研修旅行だよ」
「わかりました。すいません」
千夏は男たちにも頭を下げた。
「すいません」
「嘘」
「社長って…。本当だったの?」
男たちが去っていく。千夏は紳士を見つめた。
「話合わせていただいてありがとうございます。助かりました」
「いえいえ」

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