《MUMEI》
バスローブ
勇一はとりあえず千夏をホテルに連れて行った。
「旅館とも思ったんだけどね。心配だから、同じホテルの部屋がどこか空いていないか。フロントに聞いてみるよ」
「ありがとうございます」
一室とるにもかなりの大金だ。千夏はとにかく勇一に任せるしかなかった。
「ところで心配って?」
二人はホテルの廊下を歩きながら話した。
「君はただでさえかわいいからさ。それが、こんな色っぽいカッコしてるから、変な男にナンパされたら怖いじゃん」
「はあ…」
「こうして出会ったのも何かの縁だ。最後まで責任は持つよ」
口が達者というか、浮気に慣れているというか。千夏は早くも警戒していた。
勇一は部屋の前に立つと、キーを差し込む。
「言うまでもないことだけど、何もしないから、心配しないで」
「もちろん信じていますよ。間違い起こす人じゃないって」
勇一はドアを開けると、笑顔で言った。
「千夏チャン、ちょっとそこで待ってて」
「はい」
勇一は部屋に入ると、2つあるベッドの下を覗いた。
次にトイレ、バスルームを確認したあと、カーテンを開けて外の様子を見る。
「いないな」
すぐにカーテンを閉めると、ドアというドアを開けた。
「そこにいるのはわかっているんだ!」
どうやら大丈夫のようだ。
「お待たせ」
勇一は千夏を招き入れた。
「失礼します」
彼女は目を丸くして豪華な部屋を見回した。
「広い!」
「気に入ってくれたかな。お姫さま」
「こんな広い部屋泊まったことないですよ」
勇一は冷蔵庫からウイスキーを出した。
「千夏チャンは、未成年?」
「二十歳です」
「じゃあ、お酒飲めるね?」
「多少は」
まさか酔い潰す気か。しかし奥さんは鬼より怖い怒虎乱だ。命懸けの恋はしないだろう。
千夏は緊張しながらも、あまり変な態度をとる気はなかった。正真正銘、命の恩人なのだ。
「千夏チャン。飲んだらお風呂入れないからさ。先にシャワー浴びてきな」
「シャワーですか?」
「あ、僕を信用できないなら別にいいんだよ」
「まさか。信用してますよ、もちろん」
気まずい雰囲気にはなりたくなかった。千夏はキュートなスマイルを勇一に向ける。
「でも、彼氏ではない男の人と二人っきりなのに、シャワー浴びるのって緊張しますね」
千夏の浮気な微笑みに、勇一のもともとないに等しい理性は、万里の先まで飛んだ。
千夏はシャワーを浴びて、髪も洗った。
「ふう」
部屋は空いていたのだろうか。しかしこの高級ホテルでは、もうひと部屋とるのはもったいない。さすがに悪い気がした。
かといって安い旅館を探しに行くわけにもいかない。お金を持っていないのだ。貸してくださいなんて、言えるわけがない。
脱衣所で髪と体を拭いていると、勇一が近づいて来た。
「ちょっと待ってください。まだ裸なんで」
「ハハハ。カーテンなんか開けないよ」
「すいません」
勇一は、さりげなく言った。
「バスローブあるでしょ」
「はい」
「それ着ていいよ」
バスタオル一枚よりはましだ。千夏は水着を着るわけにはいかないので、バスタオルをしっかり巻いたあと、バスローブを着て部屋に戻った。
勇一が入れ替わりバスルームに入る。
「何でバスタオルなんか巻いてんの?」
「下着がないから」
「大丈夫だよ。脱がしたりしないから」
「わかりました。取ります」
ある程度は言うことを聞こうと思った。勇一の優しさに甘えるのは危ない。へそを曲げられたら困る。出ていけと言われたら終わりだ。そんな人ではないと思うが…。
千夏は改めて部屋を見渡した。贅沢な部屋だ。お金は持っているのだろう。
本人は社長で奥さんは有名人。千夏はバスローブを脱ぎ、ベッドに置いた。
「ふう」
さすがに緊張する。言われた通りバスタオルを取り、全裸になる。
バスルームのドアが開く音。ドキッとしたが、千夏はゆっくりバスローブを着た。勇一が出てきた。

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