《MUMEI》
12
ミトが職員室へ戻ると、日誌をつけていた同僚が顔を上げた。

「お客さんだよ」
「オレに?」

同僚が顎で応接間をさす。

「お疲れなんだと」
「誰?」

ソファを覗き込むと、黒ブチの眼鏡をかけた男が大の字になって寝ていた。全身黒の、しかも泥だらけの忍装束である。

その眼鏡と図太さは忘れようがない。

「何してるんですか…」

正面のソファに腰を下ろすと、男があくびをしながら起き上がった。グローブを付けたままの手で、ずり落ちた眼鏡を戻す。

「あー先生、おはよ」
「そんな時間ではありません」

「アハ、やっぱ堅いなぁ」

2年ぶりの再会。
嬉しさよりも、気心が知れた者同士の安堵感があった。

「変わりませんね」
「お前もな」

ため息が出るくらい。

そう言うと、男は笑ってミトの手をとった。眼鏡の奥で深緑の瞳が輝いた。

「無事帰還の報告に参りました。ミト先生」

瞳を閉じ、とった手の甲にうやうやしく額をつける。

男の名は総理。
ミトの教え子である。

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