《MUMEI》 その時、菖蒲の間の外の廊下から、何やら騒々しい物音が聞こえてきた。 それは大勢の人間の靴音のようだった。 それは温泉旅館の団体客が廊下をねり歩くような悠長な歩調ではなく、何かの目的に向かって足早に突き進むような急々した音だった。 そしてその靴音はだんだん大きくなってきて、兼松と〆華が居る菖蒲の間の外で止んだ。 兼松は一旦勝負を中断し、何事かと入口の襖の方を伺っていると、其所から何やらヒソヒソと話声が聞こえてきた。 兼松は背後を振り返り、僅かに開いていた襖の隙間を睨んだ。 それは桜庭が二人の勝負を見守っていた覗き窓でもあった。 前へ |次へ |
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