《MUMEI》
▽
「冷えるから病室戻ろう」
「……はい」
加藤君は立ち上がったが
「おっ…、」
よろめいた加藤君を咄嗟に支える。
「すみません、なんだか…、ふらつく…」
▽
遠慮する加藤君を強引におぶり俺は病院に入った。
何人かにじろじろ見られたが無視してエレベーターに乗り込む。
俺の肩口に顔を擦り寄せて…、恐らく顔を隠しているのだろう。
ノーメイクでもあまり顔の変わらない子だからその方がいいだろう。
▽
「すみません…、ありがとうございました」
「いや、それよりすっかり冷えちまったなー、看護師さんにお湯貰って足あっためるか…」
俺は氷の様に冷えた加藤君の足に触れながらそう言った。
「……ちょっとまってな」
▽
「熱くねーか?」
「はい、あの……、すみません…」
「いーから気にすんな」
「はい……」
熱い湯で絞ったタオルで足を温めてやる。
本当は風呂でも入っちまえばいーんだろうが、貧血で真っ青な加藤君には無理な話だろう。
あっという間に冷えたタオルをバケツに入れてまた絞る。
洗面器じゃ一回で冷めるからバケツで湯を貰った。
ちょっと看護師にびっくりされたけど…。
何度か繰り返して、いくらか暖まったところでスエットを下げた。
布団を丁寧に直してやり、顔色を伺う。
さっきまで真っ青な顔をしていたがだいぶ色みをおびていた。
「ありがとうございました、すみません伊藤さん…」
「あーだからすみませんとか無しだって!ちょっとお湯捨ててくっからよ」
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