《MUMEI》

「あの…、伊藤さん…」



「ん?」




「それ洗面台に流せます…」


「あ…」




ドアを開けたところで辺りを見渡すとベッドの反対っ側に洗面台があった。






「なんだ…はは」




そこでバケツをひっくり返しながらよくよく見ると蛇口が二つある。


どうやらこっからお湯をくめたみてーだ。


「フフッ…」


「はー…、全く俺は…」


「あ、…笑って…すみません!」


「いや、いーってよ、なーなんか飲みたいのとかあっか?あったかいの買ってきてやるよ」


俺は空のバケツを掴み、加藤君の傍に寄る。




「いえ、今は…、それよりもちょっと話良いですか?」













加藤君に渡された一冊のノート。





開くと見慣れた裕斗の字で何ページも書き込まれていた。





「…へー、あいつこんな才能あったんかー」




「知らなかったんですか?」



「ああ、始めて見たぞ」





詩書くなんてイメージまるでなかったからびっくりだ。




それにしても上手い。




曲つけたらなかなか良いモンばかりだ。




「その時その時想った事とか書くみたいですよ、だからそれは全部裕斗の心の中なんです…」




「へ〜、あいつの心の中ねえ…」





随分と切ない詩ばかりだ。




胸が詰まると言うか…





恋してんだなーって……











「丁寧に日付まで入ってますよね、それ、裕斗が此処で俺に付き添っている間に書かれたものなんです……




あいつは…



裕斗は…




俺の傍にいる間も一時も……




伊藤さんを忘れていなかった……




ずっと想い続けてて………



裕斗は……





伊藤さんを本当に心から…



心から…



愛してるんですね……」



「…加藤…君…」



俺を真っすぐに見据え、力強い眼差しで向かってくる加藤君。



若い子相手だとか、いい加減な気持ちで接してはいけねえ…。




真剣に、一人の人間として、今…




向き合わなくてはならねえ……





裕斗の事で…

















俺達は今決着をつける時がきた。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫