《MUMEI》
正義の味方
「ねぇ…一つ聞いていい?」
服を着直す修二の背中に話しかける。
「ん〜?」
「シュウちゃんさぁ、何の仕事してんの?」
恋人同士の会話じゃないと思った。
半年以上も付き合っている男の職業を知らない彼女なんて、他にいるのだろうか?
「ふぅ…どうしたんだよ、急に。」
修二は着替え終わると、まだ裸のままの加奈子の前にしゃがみ込んだ。
「だって…私シュウちゃんと長いこと恋人してるのに、そんな事も知らないんだよ?なんか寂しいよ…」
小さな肩を震えさせてみた。
今日こそは…!
「う〜ん…なんて言えばいいかなぁ?」
修二は困った様に腕組みをする。
「そうだな、しいて言うなら〜…正義の味方?」
「は?正義の…味方…?」
何かの例えなのだろうか?加奈子は考えた。
「それって警察の事とか?」
「ん〜ちょっと違う気もするけど、まぁそんなモン。」「何なのよ!別に教えてくれたって…アンッ!!」
ハッキリしない修二にイライラして怒ろうとしたら、いきなり耳を舐められた。
セックスしたばかりの身体は敏感で、腰が砕けそうになる。
「クスッ。ほんとココ、弱いね…」
また修二の熱い息がかかる。
「ハァ…俺、また…」
「ヤ…ダ、シュウちゃん!」
やばい…また流されちゃう…
加奈子は突き放そうとしたが、全然力が入らない。
「ン…アッアッ!」
また…
また
たぶらかすつもりなの?
「シ、シュウちゃっ…!!」
―♪♪♪♪…―
突然携帯の着メロが鳴りだして、加奈子は突き放そうとした手を止めた。
「んだよ…チョット待ってな」
修二は加奈子の頭を撫でると、不機嫌そうに電話に出た。
何話してんだろ?
凄く真剣な顔…
耳を澄ましてみるが、声が小さ過ぎて上手く聞き取れない。
『えぇ、わかりました。では…』
修二は電話を切ると、なんだか慌てた様子で戻ってきた。
「ゴメン!俺、行かないと!」
「え?行くって…何処に」「悪い!ホンットにゴメン!!」
「あ?ねぇ、ちょっと!」
バタバタと玄関まで着いて行くと、振り返り様にキスされた。
「また今度な。」
修二はそう言うとバタンと扉を閉めて去っていった。
ゴメン、ゴメンって…答えになってないじゃん…
何処に行くのかさえ教えてくれないんだね。
どうせ仕事でしょ?
分かってる。
分かってるけど……
取り残された加奈子は、一人静かに泣いていた。
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