《MUMEI》
悪夢の再現
ルームサービスの男性が笑顔で言った。
「終わりました」
勇一は財布から一万円札を出すと、男性の手に握らせた。
「皆さんでうまいもんでも食って」
「ありがとうございます。お預かりします」
チップに慣れているのか、大して驚かない。
「善行を施すと、天の加護はあるかな?」勇一が笑顔で聞く。
「さあ。悪人が裁かれない世の中ですからね」
勇一は笑顔のまま硬直。千夏も不安な顔色を浮かべて男性を見た。
「それでは、ごゆっくり」
ルームサービスが部屋を出ると、勇一は引きつった笑顔で千夏を見た。
「何か、嫌なこと言うね」
「気になること言いますね」
「まあいいや。せっかくだから食べよう」
「喉通らないよ」
二人は朝食を済ませると、チェックアウトの準備にかかった。
「いつまでもこの部屋にいるのは怪しいから、とりあえず出ましょう」
水着姿の千夏はやはり眩しい。
「千夏チャン。冥土の土産に裸を見せて」
「殴りますよ本当に」
千夏が真顔で拳を見せた。
「やったら犯すよ」
「パンチ」
千夏はふざけて勇一の顔に拳を軽く当てる。すると勇一は何を血迷ったか、千夏を強引に両手で抱きかかえた。
「何してるんですか本当に!」
そのままベッドに放り投げる。
「キャア!」
興奮しているのか勇一は千夏の上に乗ると、おなかを触りまくる。
「やめて、やめてください、いい加減にしろよテメー!」
思いっきり蹴っ飛ばした。
「何してんの千夏?」
「勇一さんが悪いんだよ」
「許さん!」
勇一にとっては許さない口実ができたらしい。千夏を再び押し倒す。うつ伏せにして両腕を掴むと、手首をクロスさせた。
「何するんですか?」
勇一はタオルを取ると、慣れた手つきで両手首を縛ってしまった。千夏は暴れた。
「本気で怒りますよ!」
しかし勇一は笑顔だ。千夏を仰向けにすると、両足首もタオルで巻く。
「やめなさいバカ!」
手首を縛られているため、あっさり足首も拘束されてしまった。
「ほどいて!」
「生意気なんだよ千夏は」
そう言うと勇一は、ブラの紐を掴んだ。
「やってごらん。奥さんに言うからね」
「何て?」
「あたしと勇一さんは3年前から付き合っていました。勇一さんをあたしにくださいって」
「そんなことしたら二人ともあの世行きだよ」
「じゃあ、やめてください」
「生意気」
勇一は脱がさない代わりにくすぐりの刑。
「きゃははは、やめて、いやははは、やははは…」
千夏は真っ赤な顔で暴れながら哀願しているのに、勇一はやめない。
「生意気言わない?」
「言わないから、いやははは」
「じゃあ謝りな」
「ごめんなさい…」
「うっうーん!」
勇一は背後から咳払いが聞こえたので、背筋が凍った。千夏も顔面蒼白。
勇一は振り向くと、乱に聞いた。
「いつから、そこに?」
「ルームサービスと一緒に入ってきたんだよ」
「ルームサービス?」
嫌でも意味深なセリフを思い出す。
『悪人が裁かれない世の中ですからね』
千夏は小声で繰り返した。
「勇一さん先にほどいて、お願い。先にほどいて」
千夏は唇まで震えている。それなのに勇一はドアに向かってダッシュ!
「逃げるが勝ち!」
「待てテメー!」
乱は追いかけたが、ドアがロックされるので廊下には出られない。
「戻って来い!」
千夏は必死にもがいた。正直この格好で置き去りはひどいと思った。
乱は振り向くと千夏を睨む。
「テメー!」
猛虎は怒りの形相でベッドに飛び乗る。
「わあ、たんま、たんま!」
手足を縛られて無抵抗の千夏に、乱は乗っかった。
「待ってください乱さん」
「もう弁解の余地ないだろ?」
「まずほどいてください。怖くて喋れません」
「いいよ、喋んなくて。このまま廊下に出すから」
そう言うと乱は、軽々と千夏を抱きかかえて、ドアのほうに歩いた。
「冗談じゃない、ヤです、ヤです!」
千夏は泣き顔で暴れた。

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