《MUMEI》
「最初からわかってたのに、裕斗は伊藤さんの事しか愛してないのに…、裕斗は俺と違って、……
真っすぐに迷う事もなく、伊藤さんしか見てないのに……」
「加藤君…」
外で見た、どん底に突き落とされた色程はないが、今にも消えてなくなっちまうんじゃないかって位加藤君が何だか儚くみえて、
俺は自然に椅子に座り、何故か加藤君の手を握りだしていた。
加藤君は一瞬その手元に目線を落としたが、すぐにまた俺を見つめてきた。
揺れる、黒い目。
深い、一度の深呼吸。
「俺、裕斗に抱かれました」
「……聞いてるよ」
「……、…、
そうですか…」
じっと、そらさずに見つめてくる加藤君。
俺の中の手が震えている。
薄い口元が震えている。
「ごめんな、加藤君……、……、……、ごめんな……、
裕斗は俺じゃなきゃ駄目なんだ、……………、俺も、裕斗の事あげられねーんだ……、
ごめんな………」
−−−−見つめあう俺達。
沈黙
沈黙
……沈黙
加藤君の口元が震えながら、何かを紡ぐ動きをした。
しかしそれは音にはならなくて、
…また、沈黙
加藤君の口元がゆっくりと、動き…
「……わかってます、……伊藤さんが好きな裕斗が裕斗だから……。
そんな裕斗に俺は惹かれた……
きっと、伊藤さんに裕斗が惚れてなかったら、俺はここまで裕斗に惹かれなかったと思います。
始めから俺の入る…、誰も入る空きはなかった」
「………」
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