《MUMEI》

「君がここを引っ越してから、これまでどんな事があったのか、ぜひ聞かせてくれないか?」


僕は5歳の誕生日に、里親に貰われた。

園長先生はその事を必ず『引っ越し』という言葉を使う。

それは、ここを去っていく子供達に、『ここは孤児院でなく、君達の家なんだ』という事を伝えるためだ。


僕は学校で起きた様々な出来事や、友達の事、そして里親との事を色々話した。
その間、園長先生はずっと嬉しそうに聞いていた。


「毎日が楽しそうだね。
ご両親とも上手くやってるみたいだし、良かった。」
「はい。二人共、とてもよくしてくれてます。
まぁ…母さんはちょっと厳しいですけど。」

「ハハっ。でも、それのお陰で今の君がいる。」

「え?」

「君は昔のまま、真っ直ぐで綺麗な目をしてる。
それでいて、優しい顔をしてる。
こんな事言っていいのかわからんが…」


ずっと笑顔だった園長先生の顔が、少し悲しげになる。


「何ですか?」

「うむ。引っ越していった子供達の中には、里親や社会に馴染めず、道を反れてしまう子もいるんじゃよ。
そういう子は顔つきまで変わってしまう…。
だから久々に会うと、誰だか分からない子もいるんじゃ…。悲しい事だよ。」

「でも、それは園長先生のせいじゃないです!」

「ありがとう。
じゃが、やはり責任は感じてしまうもんじゃよ…。」


僕は何も言えなかった。



「おっと!すまないね、今はこんな暗い話は止めよう!」


黙ってしまった僕に気付いて、園長先生は話題を変えた。


「ところで、順平君は今何をしてるんだい?」

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