《MUMEI》

夜、一人では眠れなくて看護士に手を握ってもらっていた。
体が急降下する。
瞼の奥には何かが焼き付いていて、奇妙な浮遊感を味わう。


真夜中に目が覚めた。


トイレに行きたくなり、ナースコールという発想の前に体が動いていた。

廊下の端々に点っているライトが気味悪い。

進んでくと、声が聞こえてきた。
子供の声だ。







「……事故に……」


「……殺す……」

聞いたことのある単語に背筋が凍る。

事故……瞼が熱い。




「迷える羊だ。」

一人がこちらを向いた。


「狩るか?」

もう一方が振り向くこともしないで言う。


「毛を?それとも……」

それともの先は言ってもらえない。
足が勝手に後退りを始める。


「羊、ね……」

真後ろに圧迫感を覚え、見上げると黒い外国の民族衣装を着た男が立っていた。

「ヒェッ」

この男こそ氷室千石だった。
その時は悪魔だと勘違いして、卒倒してしまったが。
まあ、あながち間違いでもない。
初めて、声を出すことを思い出したのだから感謝はしようか。

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