《MUMEI》

『お待ち下さい…。』



張りつめた修羅場を〆華の声が制した。



その声は、水面に拡がる波紋のように、憤りたつ猛者達を静止させる。



『…まだ兼松様との勝負は、ついておりません…。


…いま暫し、お待ち下さいませんか…?』



男達の視線が一斉に一人の美しい芸妓に注がれた。



ある者は狐につままれた様な顔つきで、またある者は眉をしかめながら、女の言動に一様に耳を疑った。



だが一番驚いていたのは、この荒くれ者達に連れ去られようとしていた兼松自身だった…。

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