《MUMEI》
ショーと本気
黒影夕真は、記者のインタビューに答えていた。
「デビュー戦っていうのは難しいんですよ。あたしが本気出したら秒殺しちゃうから、多少技を受けなきゃいけない。でもまさか総合格闘技みたいな技で来るとは情報不足で」
涼しい顔で話す夕真に、記者が突っ込んだ質問をする。
「怒虎乱はリングネーム通り、かなり強い選手に感じましたが」
「次のシングルマッチを見てください。見ればわかりますよ」
自信満々言い放ったが、夕真は内心では胸騒ぎがしていた。
二度続けて新人に完敗したら立ち上がれない。
不穏な空気の中、両雄がリングイン。夕真はなぜかハサミを持っている。
負けたほうが丸坊主になるという髪切りマッチを要求。乱はためらう。
髪は女の命。それを賭けるのは無意味だし邪道だと思った。
夕真がマイクを持つ。
「乱テメー、戦う前から負ける心配してんのかよ。嫌なら髪は許してくださいと土下座しろ!」
ムッとした乱はマイクをよこせというポーズ。夕真は受け取れない位置に放り投げた。
乱は怖い顔でマイクを拾うと夕真に近づき、「これが答えだ」と言った直後、ガツンと夕真の頭をマイクで殴った。
「あっ…」
夕真はまさかの攻撃に頭を抱えて両膝をつく。怒り心頭。先輩にこれはないと思った。
「テメー!」
夕真は殴りかかる。ゴングが鳴った。乱も応戦。激しく張り手合戦。
乱は冷静。的確にキックと張り手のコンビネーションで攻める。
夕真がやや後退。乱はニールキックを狙ってロープに飛んだが、足を引っ張られた。激しく倒れ込む。
夕真のセコンドがリング下から手を出した。大ブーイング。
「だれだ!」
リング下に怒鳴る乱。皆先輩だ。怒号が聞こえる。
「だれに向かって口聞いてんだテメー!」
夕真は今がチャンスとばかり乱の背中にドロップキック!
乱は場外に転落。夕真はいきなりレフェリーの胸ぐらを掴む。
「テメー公平にやれよ」
「離せ、反則、ワン、ツウ、スリ、フォー」
その間に乱は先輩レスラーに5人がかりで殴られ、強引にリングに上げられた。
今度は乱がレフェリーの胸ぐらを掴む。
「セコンドが手出してんのに何で注意しねんだよ!」
夕真は再び乱の背中にジャンピングニーパット!
レフェリーが場外に転落。夕真は乱のバックを取ってジャーマンスープレックス!
ダウンする乱。夕真は両手を押さえる。両足も夕真のセコンドが押さえる。
「ふざけんなテメーら!」
乱はもがく。何とコーナーポスト最上段には、太めのレスラーが乗っている。
「やめろバカ!」
ダイビングボディプレス!
「あっ…」
乱は意識が飛んだ。夕真はすかさず片エビ固め。
意識朦朧のレフェリーが無理やりリングに上げられた。
夕真が乱に片エビ固めを決めている。レフェリーはマットを叩いた。
「ワン、ツウ、スリー」
大ブーイング。しかしセコンドが続々リングに上がり、乱をうつ伏せにする。夕真はハサミを高々と突き上げて観客席に見せた。
ブーイングの嵐。
セコンドが力ずくで押さえつける乱の金髪を、夕真は掴むと、ハサミで切ろうとした。
そこへ竹刀を持ったエリカが乱入。皆一斉に逃げた。
「待てテメー!」
エリカは夕真の茶髪を掴むと、強引にすわらせた。
「古い茶番やってんじゃねえよこのヤロー!」
エリカはハサミを奪うと、夕真の髪を切ろうとした。
「やめて、やめて」
本気で哀願しているので離すと、夕真は素早くリング下にエスケープ。
マイクを握ると「調子に乗ってんじゃねえぞデブ」
エリカが無言無表情でリングを駆け下りたので、夕真は顔色がない。急いで控え室へ逃走。後ろから仲間が怒る。
「夕真、何言ってんだよ!」
控え室に飛び込んだがそのままエリカが入って来た。
「だれがデブだテメー!」
「あんなのパフォーマンスじゃん」
髪を掴まれた。
「待ってください。待ってください」
大騒動だ。
「待って、待って」

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