《MUMEI》
古い家
「ちょっと…婆さん!
痛っ、痛いって!!」


貴士をグイグイ引っ張る力は、老人のそれとは思えない。
掴まれている手首の血が止まりそうだ。


「いい加減放してくれよ!マジで痛いから!」


必死の訴えで、漸くその馬鹿力から解放された手首は、やはり真っ赤になっていた。


「はぁ…、全く。一体どんだけ力あるんだよ…。」


貴士の愚痴など知った事かとでも言うように、老婆は貴士に振り返り言った。


「中に入れ。」


二人は、一件の古い家の前に来ていた。

木造一階立ての、築年数など検討もつかないくらいの、とても古い家だ。


「ここは?」

「わしの家じゃ。」


こんな所に人が住めるのかと、貴士は家を見上げる。


「早く来い!」


既に中へ入ってしまった老婆が怒鳴る。

貴士は慌てて中に入っていった。

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