《MUMEI》
「俺ン中秀幸でいっぱい…」
「裕斗…」
「俺秀幸に出会えて本当によかった、
秀幸…………
絶対に俺の事離さないで…、俺も秀幸の事絶対離さないから」
「…、ッ、−−−あたりめーだ、離すもんかこんにゃろー」
裕斗の、ワックスでごわつく髪を撫で、俺達は深いキスをした。
パサリと落ちるノート。
慣れた、愛しい温もり。
もうすぐ、俺達が結ばれてから一年になる。
いろいろあったけど
これからもいろいろあるんだろーが
この温もりは
絶対に
手離さねえ…
▽
笑顔で俺達は別れて俺は車に乗り込んだ。
俺は助手席にノートをバサリと置く。
秀幸も俺に書いてなんて言うもんだから預かっちまったが…
−−−恥ずかしい。
恋人に詩を贈るなんざ普通やらねえからなあ…
下手に書いてそれをネタに笑う裕斗の姿も何となく目に浮かぶ。
「やれやれ、参ったなあ〜…」
エンジンをかけ、ナビをテレビに変える。
ちょうど、ニュースが出た。
高速道路でトラックが車に突っ込み、若い兄弟が亡くなった事を告げている。
先日通った東名だ。
尾張小牧じゃ名古屋に近い……。
「……帰りますか」
俺はナビに切り替え、車を発車させた。
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