《MUMEI》

勇一が先に目を覚ました。千夏はまだ寝ている様子だ。
彼はぼんやりと時計を見た。7時。洗面所に行く途中で、居間にあるお膳の上の置き手紙に気づいた。
「ん?」
『中野の友達のところへ出かけてくる。夕方には帰る。家の電話番号は…』
勇一はすかさず電話をかけた。
『はい、松本です』
「あの、広矢ですけど…」
『あ、お待ちください』
乱が出た。
『何?』
「今中野?」
『子守だよ。子どもがいけない場所に出かけるっていうからさ。帰りは夕方になるな』
「千夏チャンを夕方まで待たせるわけには行かないよ」
『帰せばいいじゃん』
「でも乱に挨拶したかっただろう」
『千夏は?』
「まだ寝てる」
『よろしくと』
「…わかった」
電話を切った。家の電話だから、確実に中野にいることは間違いない。どんなに急いでも1時間はかかる。
勇一は思わず笑顔がこぼれた。
「てことは、千夏チャンと二人きり」
勇一はとりあえず普段着に着替えると、千夏が寝ている和室に入った。まだ寝ている。色っぽい華奢な肩が布団から覗く。
「嘘…」
枕もとを見ると、パジャマと下着が脱ぎ捨ててあった。
「うにょ」
人の気配。千夏はゆっくり目を開けた。勇一がいる。
「え?」
布団で胸を隠す姿がセクシーに映る。千夏は全裸のまま寝たことを思い出し、一気に緊張した。
「どうしました?」
「千夏チャンおはよう」悪魔の笑顔。
「おはようございます」
「千夏チャンもしかして裸」
「違いますよ」
「嘘言ったら布団剥ぐよ」
まだわかっていない。せっかく誤解を解くチャンスなのに、すべてをぶち壊すつもりか。
「乱さんは?」
「いないよ。今中野。千夏チャンによろしくって」
「そうですか。挨拶したかったな」
千夏が寂しい顔で俯くと、勇一は布団の上に乗った。
「何やってるんですか!」
「そういう生意気な態度取ると泣かすよ」
千夏は怯む。
「待って勇一さん。乱さんの罠だったらどうする?」
「大丈夫。電話で確認したから。携帯じゃ怪しいけど家電じゃ誤魔化しようがないでしょ」
千夏は少し考えた。段々頭が冴えてくる。
「状況はわかりましたけど、勇一さんはなぜここにいるんですか?」
「そういう冷たいこと言うとねえ、メロメロにしちゃうよ」
「あたしは乱さんの味方ですから。乱さんを裏切るような行為はしません」
「じゃあ手足縛ってあげる」
「はっ?」露骨に軽蔑の眼。
「だってほら、手足縛られて無抵抗だったから、仕方なかったって言えるじゃん」
「勇一さんて、もしかしてバカ?」
「何!」
押し倒された。千夏は慌てた。勇一は笑顔で布団を剥ごうとする。
「やめてください、やめて!」
「やめないよ。布団の下は一糸纏わぬ姿と知ったらさあ、布団に潜り込みたくなるよね?」
大暴走だ。千夏は両手で布団を掴んだ。
「やめて、それだけは」
「いただきまーす!」
「キャア!」
まさか本当に潜り込むとは。千夏の表情は恥ずかしさと恐怖で歪んだ。
「千夏!」
容赦なくおなかや胸を触りまくる。
「キャア!」
良心とかないのだろうか。その以前に犯罪を犯している自覚がないらしい。
「警察に訴えますよ…きゃははははは、やははははは」
脇をくすぐられると弱い。千夏は笑い転げた。
「わかったから、やめて!」
「逆らわない?」
「はい」
やめてくれた。千夏は息づかいが荒い。勇一はすかさず触りまくる。
「ちょっと…」
逆らえばくすぐりの刑が待っている。千夏は困り果てた。
勇一は膝で千夏の股を刺激する。
「やめて」
暴れて膝をどかそうとするが、今度は両腕を掴まれてバンザイの形にさせられ、胸にキス!
「ふざけろテメー!」
行き過ぎの攻めに千夏は怒ったが、攻撃をやめない。
「やめて」
ダメだ。千夏は激しくもがくが両腕を掴まれているから、なすがままだ。
「あ、嘘…」
まずい。妙な気持ちになってきてしまった。

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