《MUMEI》
飛ばされた理性
千夏はもがいた。
「勇一さんやめて、一生のお願いですから」
優しく哀願しても通じない。勇一は千夏の両手首を握ったまま、唇を下のほうへ移動する。
「やめて勇一さん、お願いだから」
勇一は無言。舌はいちばん敏感なところの周辺まで来た。
まさかそこまではやるまいと思った次の瞬間、秘部に直撃。
「あっ…」
容赦なく千夏のいちばん困るところをキスの嵐!
「やめてやめて」
千夏は暴れた。しかし両手首をガッチリ握られているから、ほとんど無抵抗だ。
「やめて、嘘…待って」
攻撃を交わさないときつい。悔しいけど気持ちいい。
「勇一さんやめないと蹴っ飛ばすよ」
「蹴ったらピストン運動だよ」
よくそういう恐ろしいことを平気で口にできる。本当にそんなことをされたら、たまらない。
千夏は一線を越えるような事態は、絶対に避けたいと思った。
「勇一さん仕事じゃないの?」
「午後からだよ」
「朝から働きなさいよ」
「会話している間はキスできない作戦に出たね千夏?」
バレたか。
勇一は危ない笑顔で千夏の体を触りまくる。千夏は攻撃を避けようとうつ伏せになったが、お尻を攻められた。
「わかったやめて」
やめてくれない。千夏は両手でお尻をガードしようとしたが、手首を掴まれた。
「しまった!」
タオルを巻く。千夏は暴れた。
「勇一さん抵抗しないから縛るのはやめて」
「うるへえ!」
二日酔いか。千夏の抵抗も虚しく両手首をキッチリ拘束されてしまった。
仰向けにされる。
「やめて」
勇一は改めて千夏の裸を見た。
「千夏、いい体してるじゃん」
「恥ずかしい。見ないで」
勇一に日本語は通じないらしい。思いっきり見られてしまった。たまらなく恥ずかしい。
それよりも、この状態で愛撫されたら危ない。無抵抗だからもろに攻撃を受けてしまう。
千夏は顔を赤くして身じろぎした。勇一は何を血迷ったか立ち上がると、電気をつけた。
「信じられない…」
千夏は横を向く。勇一は本気を出して攻めた。
「あん!」
まだ経験に乏しい二十歳の若い肉体は、不倫帝王と呼ばれる大人のマル秘テクニックに耐えきれず、乱れた。
「勇一さん待ってください」
千夏は弱々しくもがいた。
「あ、嘘でしょ…」
味わったことのない快感に、千夏の理性は飛ばされた。
「あ、ダメだ、どうにもならない」
「気持ちいい?」
「やめて」
「気持ちいいかって聞いてんだよ?」
「気持ちいい。凄く気持ちいい。もういいでしょ」
「ダメ。千夏は生意気だから、とことん困らせてあげるよ」
このままでは危険だ。イカされたら一線を越えたも同じだと思った。
「勇一さん、やめようよ、ヤバいよ」
「やめないよ」
「やめて」
「これでも?」
「あん!」
そのとき、静かにふすまが開いた。
二人は金縛りに遭ったように、動けない。ゆっくり居間の方角を見る。怒虎乱が涼しい顔で立っていた。
(どうしよう?)
千夏は蒼白。勇一は死に顔に近い笑顔で、乱を見上げた。
「君、中野じゃなかったっけ?」
「罠だよ」
「罠?」
「近所の友達に頼んだんだ」
「そこまでする?」
「するよ。まさかこんな完璧に引っかかるとは思わなかったけどな」
嵐の前の静けさか。乱は穏やかな表情だ。
「乱。赤鬼青鬼の土産話に一つ聞きたいんだけど」
「何だ?」
「いつ頃からそこにいたの?」
乱はすました顔で答えた。
「そうだなあ。いただきます、あたりかな?」
「いただきます!」
勇一は目を丸くし、千夏も観念した。
「そんな大昔から?」
「決定的瞬間を見られちゃったね。二人とも」
二人と言われ、千夏は唇を噛んだ。なぜ最後まで抵抗できなかったか。情けない声を出したら、それはもう同意のもとと言われても反論できない。
勇一のテクニックに負けて、このまま落とされてもいいかなあ、と思ってしまった。
「さてと、久々に血が騒ぐね」乱は指を鳴らした。

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