《MUMEI》 どこからが浮気?乱は怒り心頭。千夏を抱きかかえると、怒鳴った。 「そんなに裸見せたいならなあ、見せてやれよ!」 「え?」 千夏は意味がわからない。しかし乱が玄関のほうへ歩いて行くので慌てた。 「乱さん何するんですか?」 「裸見られたいんだろ?」 千夏を抱きかかえたままドアを開けようとする。 「ちょっと待ってください!」 両手首を縛られたままだから抵抗できない。千夏は必死に訴えた。 「外だけは許してください。恥かかせたら恨みますよ!」 「人の夫の前で脱いどいて反論できっかよ。自分から裸になったら完全に挑発だろ?」 千夏は乱の勘違いに気づいたが、ドアが大きく開かれた。千夏は暴れた。 「聞いてください。脱いだのは深夜です!」 「何?」 「脱いだのは深夜です。寝付けなくて。で、朝目が覚めたら勇…旦那さんがいたんです」 乱は興奮してすぐには理解できなかったが、ドアを閉めた。 「和室に戻ってください」 涙目で睨む千夏。乱は無言のまま和室に戻った。 「放り投げたら許しませんよ」 「強気に出てんじゃねえよ」 乱は千夏をゆっくり布団の上に寝かせた。 「深夜脱いだ?」 「そうです」 「何で先に言わねんだよ」 乱の身勝手な発言に、千夏も言い返した。 「人の話聞かないでいきなり怒鳴ったり殴ったりするからダメなんですよう!」 「何だと?」 「旦那さんは一回も浮気していないのに、弁解する前に蹴られたら、黙るしかないですよ。それで不倫したことになっちゃう」 「妻以外の女に愛撫したら浮気だろうよ」 千夏は慎重に言葉を選んで反論する。 「あたしと旦那さんをわざと二人きりにした乱さんに、罪はないんですか?」 「開き直ってんじゃねえよこのヤロー!」 「野郎じゃありません」 「何だとテメー?」 乱が怖い顔で睨むが、千夏も見返した。 「あたしは、したら浮気だと思います。もちろん心の浮気もダメだけど、したか、してないかは天地の差じゃないですか?」 乱は押され気味だ。 「大人の意見じゃねえか」 「あたしだって食事されただけて嫌ですよ。でも謝ってくれたら、好きなら許せます。でも、したら、絶対許しません。別れます。したら裏切り行為ですよ」 乱は攻撃材料を失い、千夏をうつ伏せにした。 「あっ…」 タオルをほどく。 「ありがとうございます」 千夏は腕と膝で胸と下を隠した。魅惑的なポーズだ。乱は思わず呟いた。 「まあ、あいつに耐えろってほうが無理か」 「え?」 「あいつは、千夏みたいのタイプなんだよ」 「そんなことないです」 「二度と会わないって誓えるか?」 「誓います誓います」 助かるかもしれない。千夏も必死だった。 「約束破ったらどうする?」 「なんなりと」 「道端だろうと通行人が見ていようと、パイルドライバーからの逆エビ固めだぞ」 つまりは死ぬということか。 「いいですよ。旦那さんと会う理由がありせんから」 「言ったな」 「その代わり、離婚はしないでください」 真剣な表情の千夏が愛らしい。思わず抱きしめたくなる。勇一の気持ちも少しはわかる。 「じゃあ、二度と会わないな。約束だぞ」 「はい。でも乱さんには会いたい」 乱は横を向いた。深呼吸。ふう、とため息をついて首を動かすと、千夏を見た。 「その口で男がみんなイチコロになるんだな」 「イチコロになんかしてませんよ」 「知らず知らずっていうのがいちばん怖いんだよ。この小悪魔めが」 「何ですかそれ?」千夏はふくれた。 万事休すかと思われたが、今回も無傷で虎穴から脱出できた。 服を着た千夏は、乱に挨拶して、駅のほうへ歩いていった。 角を曲がるとき。ふと思い立って振り返る。すると、乱はまだ家の前に立っていて、大きく手を振った。 「乱さん…」 感激に身を震わせた千夏は、二度三度、深々と頭を下げた。角を曲がる手前でもう一度手を振りながら頭を下げた。 「来て良かった…」 前へ |次へ |
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