《MUMEI》

「千石様には千守さんより上のお姉さんとお兄さんがいらっしゃるんですよ。」


「お母さんは?」

素朴な疑問だった。


「……私が代わりじゃいけませんか?」

微動だにしないモモの笑いに恐怖を覚える。






「鬼さんこちらー……」

オニサン?
不思議な声が聞こえた。


「手のなる方へー……」


「走っては行けませんよ。」

モモが足音のする廊下に出ていく、入れ代わるように二人が入って来た。


「弱そう。叩いてみようかな。」

スカートを履いた少女、当時のはなちゃんが俺に向かって拳を上げてきた。


「油断させといて鎌でも持っているんじゃないか。」

兄さんは今も昔も兄さんのままだった。


「……?」

まだ日本語もまともに覚えられなかった俺だがいい情報か悪い情報かくらいは把握していたつもりだ。


「そうか、まだちゃんと伝わらないんだ。これなら分かる?『人殺し』」

指を指され、人殺しという単語だけが流暢な英語で耳に入った。


「あ、いつの間に入っていたんですか!いけませんよ病み上がりの人に賑やかにしちゃ。」

モモは素早く二人を廊下に引きずり出した。

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