《MUMEI》
シャワーを目一杯強くして、設定温度も上げる。
熱い…気持ちいい…
自分で入れそうだと判断出来たら風呂に入っていい事になっている。
どんなに体調が悪くてもシャワーだけは欠かさないでいた。
せっかく来てもらっているのだから、自分の身位整えて出迎えたいから…。
でも、裕斗には明日から泊まりは解放してあげようと、決めた。
来なくて良いからっていうのはまだ言えない。だけど、もう夜だけでも解放してあげなくてはならない。
伊藤さんに返してあげなくては…
俺は十分裕斗に甘えた。
こいつの無償の優しさにどっぷり寄りかかった。
同情でもいいから俺に目を向けて貰い、もしかしたら俺をそのまま受け入れるかもしれないとか、色々妄想しまくった。
そんなの、俺を見てもらえる訳ないのに
俺を抱く抱き方だって、あれには恋愛感情なんかまるで含んでなかったのも、今ならよくわかり過ぎて。
裕斗は優しすぎだ
優しすぎて残酷だ
残酷だけど、最後まで面倒を見てくれようとする
裕斗だって本当は弱くて、人に頼りたい部類なのに…
いや
そうか……
−−そうだったよな
伊藤さんが全部
全部裕斗を支えているから
倒れそうになっても、例え倒れても
いつでも後ろに待機して支えてくれる伊藤さんがいるから
だから裕斗は強い
だから、優しい
俺は…?
俺は………
「大丈夫か?惇」
「……、……、
隆志……」
「誰もいねー時は風呂はダメだって言ったろ、……大丈夫か?」
隆志はシャワーを止め、へたり込む俺の腕を掴んだ。
「…濡れちゃったよ隆志…」
革のコートがシャワーで所々色が変わってしまっている。
足元を見れば靴下を履いたまま。
髪に水滴が纏わり付いている。
「そんな事はいーんだ、立てるか?」
本当に心配そうに俺を見下ろす隆志。
俺はゆっくり頷くと隆志は腕を引いて立たせてくれた。
「…−−あ…、」
立ち上がった瞬間立ちくらみがした。
一瞬で目の前が砂の世界になる……。
ふわりとした。
気持ち…
いい……
薄く目を開けると、俺の視界に隆志が映った。
壊れ物を扱うようにベッドに降ろされる。
−−−これが、ふらついても支えてくれる腕…
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