《MUMEI》

「…隆志仕事は…」

「わりい、すぐ戻る……、ちょっと会いに来たんだ」



「…そう…」


俺の体を丁寧に拭きとる隆志。


「ふふっ、俺病人みてー」
「…病人だろ、……」

「…うん、…」


隆志は俺にパジャマを着せだす。
だいぶ視界も鮮明になって、きっともう起き上がれるけど俺は黙ってやってもらっていた。


隆志の真剣な表情。


テレビや雑誌から見える隆志はいつもクールで格好よくて…

そんな、こんなまめに何かをするなんてとても想像つかなくて。


似合わなくて…



優しくて……



触れる手が
暖かくて……。




「……ふぅ……。ン……、ぅ……、ぅ…」

「惇……」


「たかし…、隆志、おれ……、俺…」


「大丈夫だよ、大丈夫だから……」




ふわりと覆いかぶさる隆志。
緩く抱きしめられて、髪を撫でられる。

気を使った微かな重み、隆志のいつもの匂い。





涙が止まらない





壊れた玩具のように俺は、泣いた。




声もうんと出して、必死にしがみついて。





子供をあやすように俺を包む優しい空気。



「…無理しなくていーんだよ、無理しなくていーんだ…

全体重かけて寄りかかっていーんだから…

全力で俺は……


惇を支えるから。



大丈夫だから…」




「…うん」




コートの革の匂い、いつもの香水




いつもの、俺を安心させる台詞






俺はゆっくりと瞼を閉じて、ゆっくりと意識を手放した。

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