《MUMEI》
口実
「また会ったね。」
僅かに開けた玄関のドアを静かに閉めると、男はツカツカ加奈子に歩み寄ってきた。
「ちょっ!何勝手に…」
「それ、返してくれる?」「え?」
男は加奈子の言葉を無視して、手に持っていたペンダントを指差した。
「そのペンダント、俺のなんだけど。」
「あなたの?……あぁ、そうか!あの時落としたんだ。」
差し出された掌にそれを返してやると、男は安堵に似た溜め息をついた。
「はぁ。良かった、見つかって…」
「大切なモノなんだ?」
「まあね。」
男はそれを首にかけ、そう短く答えると、そそくさと部屋を出て行こうとした。
「ちょっと!」
加奈子はそれを慌てて呼び止める。
「はぁ…何?」
男は面倒臭そうに振り返る。
「あ〜‥えっと…」
どうしよう。つい勢いで呼び止めちゃった‥
「え〜っと…」
「だから何だよ。」
男の声が徐々に苛立ちを帯びてきている。
「何もないんだったら…」「あぁあのさ!お腹空いてない?」
不意に目についた修二特製イタリアン。
「夕飯作り過ぎちゃって…一緒にどうかなぁって。」
機嫌の悪そうな目付きに少し緊張してしまう。
やっぱり断られるかな…
「む、無理にとは…」
「いや、いいぜ?」
「へ?いいの?」
思わぬ返しに加奈子は驚いた。
「調度腹減ってたとこだし、折角だし食べてく。」
「そ、そう?じゃあ入って入って!」
加奈子は男の腕を掴むと、もう一度部屋に招き入れた。
夕飯なんてただの口実。
本当は他に聞きたい事があったのだ。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫