《MUMEI》 「艶子は大人しいね、豆腐を好む。」 先生は黒いものを先生は好む傾向に或る。 私の視線なんか気にせずに猫は美味しそうに豆腐を食べていた。 「良いですか、水上祭を題材に何か書いて戴いて、少しでも首塚斬士郎の知名度を上げてもらわないと……。」 「五月蝿いな、干渉されては良い作品が生まれないじゃないか。」 「先生は私を疎ましく思っているのですか?」 「女々しいなあ。まるで恋人に謂う台詞だ。」 先生は私の気持ちを知りながら揶う。 嗚呼、憎いくらい愛しい。 「先生に少しでも創作意欲を掻き立てて貰う為に水上姫の舞の最前列を取ったんですよ。」 水上祭では水上姫が毎年選ばれ、体中に花を身に付け舞を舞う。 花は人々に散り、其れを手に入れると水上神の加護を受けるそうだ。 水上姫は必ず頭に付けている最後の一輪だけを舞い終わる頃残し、其の花を祭の最終日に流して終わりに成る。 「水上祭で、そうだなあ。水上姫は女子が不足し代わりに倩しい少年が舞うんだ。そして、水上祭で舞う彼にと或る青年実業家が惚れてしまう。」 出た、先生の出鱈目倒錯物語。 どうせ、口にするだけで次の時には忘れてしまう。 「悲戀ですか?万人には受けませんね。」 結局、付き合ってしまう私も私だ。 「悲戀だとも、二人は駆け落ち同然に青年の棲む都心へ逃げ出す。しかし、生活は苦しく青年は胸を悪くし代わりに水上姫は身を売って生計を立てた。やがて青年の病を知って彼の一族は迎えに来る……彼だけね?可哀相に姫が家に帰ると青年は居ない。今頃、温かい蒲団で元婚約者の手厚い看病を受けているんだ。」 ……先生の戀愛物語が胸を躍らせるだけでは無く現実味を帯びているのは此の破滅的な思考在ってのことだろう。 そうでなくては、酷い病だ。 前へ |次へ |
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