《MUMEI》
報せ
「裕斗、裕斗…」
「……ン…、………
……隆志……」
▽
低い、小さな声と共に俺は隆志に揺り起こされ、病室の外に引っ張れた。
眠い瞼を擦りながらシンと静まりかえる廊下を見渡す。
「…ふあ〜…、隆志仕事終わったん?」
「いや、まだだけどそれどころじゃなくて、…、ちょっとここじゃ話せねー、…−−家族室も避けるか……、ちょっと外良いか?」
「はあ?外?………」
寒いじゃんって言おうとしたが…
隆志のただならぬ雰囲気に俺は言葉を飲み込んだ。
「……わりい、急いでくれ…」
「わかった」
俺は病室をそっと開け、置き忘れていたコートを掴んだ。
羽織りながら速足で進む隆志の後ろを着いて行く。
入口を出たところで、隆志は立ち止まり左右を見渡しだした。
俺は隆志が場所を探しているんだと察し、隆志の前に立ち、ベンチのある方に促した。
▽
「どうしたんだ」
「仁さんが亡くなった」
「……は?」
「惇の兄貴が死んだんだよ!交通事故で!」
「………」
「………」
「マジかよ…」
惇の兄貴が……
死んだ……。
「…今ニュースで大騒ぎだ、過労で入院中の加藤惇の兄貴が事故で死んだって…、もし惇が知ってしまっていたらと思って慌てて来たんだ」
隆志は木に両手をつき、地面を見つめている。
「…なあ、あいつ風呂場で崩れてたぞ?…もうちょっと、ちゃんと見てやってくれよ…」
「………、ごめん…、ワリイ…」
「………、くそ…」
あの時間だからとっくに入ってたのかと解釈してしまっていた。
一言聞けばよかったのに、俺は秀幸に会えて浮かれて、惇の事を粗雑に扱った…。
「そんなもういい…、もう……、なあ、俺仕事しなきゃなんねーんだよ…」
隆志は木に手をついたまま、ずるずると下に崩れ落ちた。
「こんな情況だって仕事しなきゃなんねーんだよ、もう行かなきゃなんねーんだよ…、なあ、頼むよ、惇の事頼むよ、
本当は……本当は…」
バシッ!!
地面の落ち葉が隆志の拳で、舞い上がった。
「俺がついてやりてーんだよ!
おまえになんか頼みたくねえ!
安心できねーよ!
あ〜もう!クソっ!なあ、頼む!
俺が戻るまで
惇を……頼む……」
真っ白になる頭ん中。
俺は……。
「惇を頼む」
「…わかった」
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