《MUMEI》

「えーい!」

国雄が前のめりに海へ浸った。
飛沫が撥ね、俺の足の裏の形がくっきり浮かび上がっている。
なんだか童心に返った気分だ。


「……拷問?」

真顔で俺を見上げた。
水も滴るイイ国雄だ。


「なんとなく蹴りたくなってしまって……。海に突っ込んでもカッコイイなんて狡いな。」


「理不尽な暴力を振るったくせにぬけぬけと……くそ、上も全部イった……。シャワー浴びないと……コインランドリーの帰りで良かったよ全く。」

海水で濡れて張り付く前髪を後ろに掻き上げ、まるでプロモーションビデオでも作れそうな堂々とした立ち姿だった。


「スーツ!」

国雄のスーツはカッコ良すぎる。


「……光、反省していないね?」


「ごめーんね?」


「媚びても無駄だ。」

……少し怒らせた。

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