《MUMEI》
いつもの朝
ジリリリリリリッ!!

枕元に置いてあるうさぎの目覚ましが朝を告げる。

「今宵〜!!起きてるの!?遅刻するわよ!!!」

第二の目覚ましの声が今宵の耳へ届く。

「ん〜・・・。うるさい・・・」

春休みなんだからもうちょっと寝かせてよ・・・。

往生際が悪く、雪村今宵(ゆきむらこよい)は目覚まし時計をチラッと見てまた布団に潜り込んだ。

「こー。今日から新学期なんだけど」

今宵を【こー】と呼ぶ神瀬歩雪(かなせふゆき)は、今宵がかぶった布団をバサッと剥がす。

まだ春とは言っても肌寒い季節。

今宵はひんやりとした空気に触れ、小さく縮こまった。

「んん〜〜!!寒いよ歩雪くん〜!!」

「ほら、早く起きな。オレまで遅刻する」

今宵は、歩雪にグイッと腕を掴まれて起こされた。

「なんなのも〜!!眠いんだってば!!」

「本当にあんた寝起き最悪。新学期早々遅刻する気なの?」

不機嫌な顔をしている今宵に、歩雪は呆れた。

「新学期〜〜!!?なんでもっと早く言ってくれないの〜〜!!」

今宵はガバッと体を起こして叫んだ。

「さっき言った」

「着替えるからちょっと部屋出てて〜〜!!」

歩雪はべットから飛び起きた今宵を見て、さっきよりも明らかに呆れた顔をして溜息をついた。

そして、早くしなよ、と今宵の鞄と自分の鞄を持って部屋を出た。

「うわぁ〜〜!!新学期に遅刻なんて最悪だ〜〜!!」

今宵は慌てて真っ白なセーラー服に腕を通す。

そして、緩いパーマのかかった長い髪を右耳の辺りで束ね、肩に流した。

また歩雪くんに迷惑かけちゃったよ〜〜!!

まぁ、いつものことだけど!!

今宵は開き直って準備を終え、部屋を出た。

ドタドタと階段を下りると、歩雪は既にリビングでトーストをかじっていた。

「おはよう!!お母さん、歩雪くん!!」

今宵は歩雪の向かいに腰を下ろした。

「おはよう、じゃないわよ、まったく!!ほら、早く食べちゃいなさい!!」

「はーい」

今宵の母、加奈子は呆れながら、今宵の前にトーストとベーコンエッグを載せた皿を置いた。

「ごめんね〜ふーくん!!今宵ったら本当に寝起きが悪いんだから」

「いいえ。オレこそ毎日朝ご飯とか頂いて、すみません」

「当然よ!!毎日今宵を起こしに来てくれてるんだから!!」

「あたしはそんなに厄介なの?」

こんな会話を真面目にされると、結構へこむんだけど・・・?

「あんたは分かんないだろうけど、起こす方は大変なんだから!!」

「そんなこと言われても・・・」

母親にこんなこと力説されて、悲しくない人なんていないよ・・・。

「こー。本当に遅刻する」

「へ?」

「ほら」

いつの間にか準備を終えた歩雪は、時計を指差す。

8時・・・?

今宵は時計を見て固まった。

「やばい!!!」

今宵は慌てて残っているものを牛乳で流し込み、立ち上がった。

「ご馳走様でした!!」

そして今宵と歩雪はいつものように、仏壇に手を合わせた。

お父さん、朔夜(さくや)お姉ちゃん、いってきます。

今宵が顔を上げると歩雪も顔を上げた。

お父さんと朔夜お姉ちゃんは、私が小さい頃に交通事故で亡くなったと聞かされていた。

本当に小さかったからその時のことはほとんど覚えていないけど、沢山泣いて、沢山悲しんだのは覚えている。

「じゃあ、行ってきます!!」

「行ってきます」

今宵は玄関から飛び出し、歩雪はぺこりと頭を下げて今宵の後を追った。

「はい!!いってらっしゃい」

加奈子は手を振りながら2人の姿を見送った。






「ねぇ。大樹パパと歩美ママ元気?」

急いでいた2人は同じ制服の群れと会い、スピードを落としゆっくりと歩き出した。

「あぁ、相変わらず。昨日電話が掛かってきて、今はパリにいるって」

「はぁ〜。やっぱりすごいね、歩雪くんのパパとママ!!」

「今はバカンス中らしいけど」

歩雪の両親は海外赴任をしている。

そのため歩雪は今宵の家の隣に1人暮らしをしていた。

だからうちのお母さんは、歩雪くんを家に住ませようとしてるんだけど・・・。

ちょっと無理があるでしょ、さすがに。

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