《MUMEI》
チャンス
「もう今日で二十歳ね。お誕生日おめでとう!」

「先生も、覚えててくれたんですか。」

「当然!!」


美奈子先生は腰に手をあてて、エッヘンと胸を張る。

「ありがとうございます。」


素直に嬉しいけど、心に靄が架かる。


『当然!』……だったら

ねぇ、先生。

僕が、あの日最後に言った言葉は覚えていますか?


それが聞けずにいるから。


「おっと、そうじゃった!」

園長先生の声で、僕の頭は、過去から現在に戻った。


「わしは、今からケーキを買ってこにゃならん。」


「え?ケーキなら、私さっき買ってきましたよ?」


「いや、今日のパーティーに、順平君も参加してくれるんでな。」


「そうなんですか?!
じゃあ、子供達大喜びしますね。」


美奈子先生はにこやかに言う。


ここ、太陽の家では、クリスマスなどの祝い事でケーキが出る日に、誕生日が被ってしまったら、ケーキが二個食べられる。


二つまとめて、一個のケーキで祝ってしまっては、どちらも中途半端になってしまうという、園長先生の粋な計らいだ。


だから子供達は大喜びするわけ。


「だから二人共、先に行っててくれ。」


「わかりました。じゃ、行こっか、順平君。」


「あ、はい!」


二人きりになるチャンスを思わぬ所で手に入れてしまった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫