《MUMEI》
−−−脱
「……仁が…、」
仁が…死んだ…
「大丈夫か?惇」
「……、…、……
仁…が……」
「事故の原因はまだわからないらしい、ただ、仁さんが拓海さんを庇ったおかげで、拓海さんは…
即死を免れたらしい」
そう、平山さんは静かに言った。
「兄貴は…」
「重篤な情況だ、……、お父様とお母様がついていられる……」
「……危篤……」
危篤…
危篤
危篤…
仁に助けられて…
でも
助けられたのに…
危篤…
………
「裕斗」
「…ん」
「ちょっと電気つけて」
裕斗は俺の手を離し立ち上がった。
薄暗い空間が一瞬で眩しくなり、俺は目を細めた。
「平山さん、兄貴の病院に連れて行って下さい」
俺はそう言いながらベッドから降りた。
「な!何言ってんだよ、今の惇には無理だ!第一主治医が許さない!」
「許可取って来て下さい平山さん!兄弟がこんな事態なんだから話は別でしょう!」
「裕斗…」
裕斗の台詞に俺は固まった。
嬉しくて、固まった。
裕斗は備え付けの扉を開け、俺のシャツを掴んだ。
「行かせてやってください!今行かないと惇は一生後悔する……」
裕斗はゆっくりと俺達の方を向き、そして……
「……また新たなトラウマに縛られておかしくなるより倒れてもいいから行かせた方が絶対いい……
−−−大丈夫、倒れても隆志が惇を起こすから。
……、倒れさせてやって下さい、お願いします、平山さん……」
「裕斗…」
裕斗は平山さんに向かって土下座をしてる。
裕斗が…
俺のために…
「お願いします!惇を!惇を!!俺は何も惇にしてやれねえ!責任一つ取る事も出来ねえ!
だけど!だけど!行かせてやりたい!!」
「……裕斗」
「いい友達もったな、惇…」
平山さんは静かにそう言いながら裕斗の腕を掴んだ。
立ち上がった裕斗は……
ぐちゃぐちゃに泣いていた。
「……わかった、行こう」
「「平山さん…」」
平山さんは、ふと俺に向け微笑み、しかし一瞬でそれを真剣な色に変え
病室を出て行った。
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