《MUMEI》

そんな兼松の安堵も束の間だった。




『…何を安心している?』



藤城の低い声が唸った。




兼松はハッとなる…。



最大の山場を越えた男は、その後に待ち受ける小さな峠の存在を、無意識のうちに軽んじていた…。




極限の緊張は、兼松の思考から〆華の最後の一手の存在をすっかり消し去っていたのだ…。




兼松が芸妓の方へ視線を移すと、女の細い指が山札の頂を捲ろうとしているところだった。

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