《MUMEI》

何故か全くふらつかない体。



−−−全身が、
緊張している…。



仁が死んだって聞いて、なのに酷く冷静な頭の中。
つまらない事でスイッチが入ってパニくっていた俺が嘘みたいにしっかりしている。






酷く、クリア。





ガチャリ…




「行くぞ、用意出来たか?」

「…はい」











「何乗り込もーとしてんだよ裕斗、おまえは仕事あんだろ、−−−俺は大丈夫だから、おまえも仕事頑張れ、大丈夫だから…」
「残念でした!、俺今日オフ!平山さん俺も良いですよね?」
裕斗はドアを閉めながら言った。

「ああ、…じゃ、急ぐぞ」

裕斗は正面を向いたまま、強く俺の手を握ってきた。



緊張した気持ちに温もりと圧迫感が心地良くて。


「ありがとうな裕斗…、−−−ありがとう……」





ありがとうしか言葉が見つからなかったけど、

それに答えるかの様に裕斗は更に強く手を握ってきた。








高速に上がり、神奈川県も半分終わった頃、太陽が全て昇りきった。



途中平山さんは何度も兄貴がいる病院に電話を入れた。





…兄貴にまだ容態の変化はないらしい。



発車してから間もなく運転は裕斗に代わった。それは平山さんが携帯の電源を入れた途端に電話がなりっぱなしになったから。


無理矢理病院を外出した俺の事で、事務所と打ち合わせや、やり取りを繰り返している。



本当に、何かをしようとするとたくさんの人に迷惑をかける。




しかし同時に、俺はたくさんの人に支えられているんだって実感した。



俺は、みんなに、


みんなに返したい。




仕事できっちり返す。




もう、甘えは棄てる。





「それにしても運転うまいな…、高速も慣れてるし、まだ車ないんでしょ?」


助手席に座る平山さんは本当に関心した様に裕斗に聞いた。

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