《MUMEI》
得技は逆撫で?
人間じゃないって…
コイツ何言ってんの?


「はぁ?何ソレ。意味わかんないんですけど?」

マンガの読み過ぎではないかと思える程の、見え透いた嘘に加奈子は呆れた。

「もっとまともな嘘付けないわけ〜。」
「別に信じなくてもいいけどさ。その方が…いや。」
男は何かを言いかけたが、思い直すかのように会話を中断した。

「その方が?」

決して男の話を信じる訳ではないが、最後まで言ってもらわない事には虫の居所が悪すぎる。

「その方が、何?」
「何でもないって。」
「気になるじゃん!!」

一番大事そうな所が聞けない、或は見えないというのは人間誰しも無償に気になるものだ。


も〜〜っ!!
何なのよ!?いつまで黙ってる気?


加奈子は黙々と食事を再開する男をジッと睨む。

「…そんなに睨まれちゃ食が進まねぇ。」

目線に気付いた男が、ようやく零した一言。
それがまた加奈子の気丈を逆撫でしてしまった。

「もういい!言わなくたって結構!別に聞きたくもないし?興味もない!」

「うん、それ正解。」


正解って…


「もうキレた!」
「さっきからずっとじゃん。」

男はチラッと加奈子を見ると楽しそうに笑う。


私、バカにされてる?


「出てって…」
「まだ残ってるし。」
「出てけ!あんたに食べさせる物は無い!!」

加奈子は立ち上がると、男が持っていたフォークを無理矢理取り上げた。

「わかったよ。まぁ、食べる事は食べたし。」

男は落ち着き払ったように立ち上がると、ノソノソと玄関へ向かった。

「早く出てってよ!」

加奈子は早く追い出そうと、男の背中をグイグイ押し始めた。


あれ…?


「はいはい、わかったから。そんなに押すな。」

玄関口で男は振り返ると、加奈子の両肩を掴み、グイッと引き離すと胸の前で両手を合わせた。

「今日はご馳走様でした」「ねぇ、背中…」

先程感じた違和感を確かめたかった。

「ご馳走様でした。」

しかし男は、それを遮るかの様にもう一度礼をいうと、加奈子が口を開く前にさっさと出て行ってしまった。

あの違和感は一体何だったのか?


男に対する謎がまた増えてしまった。
唯一判ったこと…それは、あの男は“他人の気を逆撫でするのが異様に上手い”という事だけだった。

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