《MUMEI》

一の辻同様に道祖神があり、ソレに縋る様に怯え、蹲っている遠野の姿をすぐに見つける事が出来た
その彼女の指先に何重にも巻きつけられた銀糸を高岡は見
糸の先は全て、朱に結わえられていた
「やっと来たか。標糸」
遠野を解放してやろうと駆け寄る高岡
途中、それを遮るかの様に少年が突然姿を現す
嫌な笑みに緩んでいくその顔を正面に見据え、腹立たしいソレを高岡は睨みつけた
「由紀を、離して」
端的に自身の要望を伝えれば
だが返ってくるのはやはり無表情な顔。
「なら、お前が消えればいい」
「え?」
「お前が消えるのなら、こいつは放してやる」
交換条件だ、と更に続ける少年に
高岡は瞬間返す言葉を失った
消えろ、とその至極分かりやすい言葉が、このときだけは理解が出来ない
「……お前は必要ない。こいつらは此処に居たいって言ってる。此処から出たくないって」
だから消えろ
言外に含まれる裏の意に高岡は気付き、顔を伏せてしまう
「お前さえ居なくなればこいつらは導かれない。ここから居なくなったりしない。だから」
「喧しいわ。このクソガキが」
何の反論も出来ずにいた高岡を庇う様に、不意に前へと時雨が立つ
少年へと吐いて捨てる様に言って向けると、少年もまた時雨を睨みつけながら
「……無駄だ。」
低いその声に、脚元からは朱の手形が更に現れる
四辻、その四方の道全てを朱が覆い尽くしてしまった
「……嫌ぁ!」
濃い朱の色に、遠野は拒絶するかの様に両の手で顔を覆う
恐怖を覚えたのは高岡も同様で
自身の脚下に張ってくるそれらをただ眺め見るしか出来ずに
動けず、立ち尽くしたままの高岡へと少年は迫って寄り
ソレを時雨がやはり遮っていた
「標糸」
明らかな殺気を感じ、地べたへと座り込んでしまった高岡の膝の上
ゆるりと重さが加わった
見れば其処に五月雨がいて。そして何故か高岡の指に噛みつく事を始め
だが痛みはなく、何かを訴える様な甘噛みだ
「恐れる事はない。奴らはただ還りたいだけだ」
「還るって……」
「現に迷うた哀れな者共。この糸を辿れ。これは標糸、お前たちを逝くべき場所へと誘う道標だ」
高岡の問う声に返す事はせず、五月雨は朱達へ穏やかな声を向ける
宥めるようなその声に、朱達は蠢く事を止め糸へと群れを成した
「……標糸、想うてやってくれ。こいつらが無地糸を辿っていける様」
高岡の頬へ鼻先を擦りつけながら五月雨は乞うて
その五月雨の頭を撫でてやりながら高岡は前を見据える
「……泣いてる」
高岡との間を隔てている時雨を退けようと更に群れを成す朱達から
声ではない、だがすすり泣く様なそれが聞こえ始めた
帰る道が解らない
帰りたい、と
脚元に縋りついてくる周たちを見、高岡は胸苦しさばかりを覚える
「……どうすれば、いいの?この子たち、帰りたいって……」
頭の中に直接響いてくる嘆く声に
高岡は耳を塞ぎ、膝を抱え蹲ってしまった
蹲ったまま小刻みに身体を震わせ始めた高岡
少年はその様を眺め
瞬間に姿を眩ませ時雨を避けると
少年は高岡の前へ
立つなり、彼女の手首を掴み上げる
「……斬ってやる。標糸なんて」
低い声が聞こえ、そして指先に冷たいものが触れた
指を斬り落そうとでもしているのか
その意図を感じ取った高岡は手を振り払う
直後に、何かを叩く乾いた音が鳴った
「いい加減にしなさいよ。このクソガキ!」
眼尻に涙を溜めなががら、高岡は少年の頬を手の平で打っていた
恐さと、胸苦しさと
様々な感情が入り混じる
「……アンタが、迷わせてる訳。何で?帰りたいって言ってるじゃない!どうして……」
途中、涙で声を詰まらせる高岡へ
少年は、叩かれ僅かに痛む頬へと手を触れさせながら
「……お前は、何も解ってない。導いてしまえば、全て消えてしまうのに」
寂し気な表情を浮かべ、そして少年は姿を消していた
後に残された高岡達
座り込んでしまったままの遠野へと駆け寄り大丈夫かを問う
「だ、大丈夫。腰抜けただけ……」
「立てる?私、送って行くよ」
遠野を支えてやりながら家路についた
遠野宅に到着し、高岡は挨拶一つで踵を返しその場を後に
しようとした矢先
「ね、蒼」
遠野に引き留められた

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