《MUMEI》

それからというもの、ワシと旦那様は、奥様の目を盗んでは、夜毎繰り返される甘い時間を過ごした。


じゃが、来る時が来てしまった…。」


老婆は仏壇の写真をみる。

その眼差しは、余りにも悲しいものに見えた。


「何が起きたんですか…?」


「妊娠じゃ。
ワシは旦那様の子を妊娠してしまった…。

ワシはその事を旦那様に打ち明けた。


…その時の旦那様の顔といったらなかったよ…。


人は、あんなにも他人を、冷たい目で見れるものなのじゃと学んだよ。」


老婆は悲しく笑った。


「産むなと…言われたんですね?」


「あぁ。まぁ、当然じゃ。財閥の人間が、使用人をはらませたと、世間にばれればどうなるか…。」


「でも…」


貴士は仏壇の写真に視線を送る。



何かいい事があったのだろう。

白黒写真の中の少年は、満面の笑みで、確かにこの世に存在していた事を、証明していた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫