《MUMEI》

彼はわたしのすぐ後ろで、しゃがみ込んでいた。
そして深いため息をつき、残念そうな口ぶりで、のたまうのだ。

……あの、伸びやかな声で。


「ひもパンの方が、もえるんだけどなぁ」


ピン!ときた。
わたしにぶつかって来た《なにか》は、間違いなくこの男の子だ、と。


恥ずかしさと悔しさに、わたしは涙目で、彼を睨みつける。


「どこみてんのよ、ヘンタイ!!」


彼は、あはは!と軽く笑い、のんびり言った。

「べつにいいじゃん、減るもんじゃないんだし」


……。

…はぁ!?

反省の色の見えない言い草に、カチンときたわたしは、ふざけんなぁっ!と怒鳴りながら、彼の襟首を両手で締め上げた。

「そもそも、あんたが急にぶつかって来たから…!!」

そこまでまくし立てたのを、彼が、しー!と自分の唇に人差し指を宛てがった。わたしは眉をひそめて黙り込む。

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