《MUMEI》

わたしは、いまだ握りしめていた彼の襟首をパッと手放し、何事もなかったようにほほ笑んで見せた。

「シャツの襟が曲がっていたわ、これでもう、大丈夫よ」

彼の肩を2、3度ぽんぽんっ、と軽く叩く。彼は、すましたわたしの顔を見てニヤニヤしながら、ありがと〜と答えた。

周りの人だかりは、そんなわたしたちのやり取りをながめてホッとしたように、なんだ〜、と口々に呟く。

「ビックリしたぁ〜、襟を直してただけかぁ!」

「襟首掴んですごんでるのかとおもった〜」

ハハハ!と爽やかな笑い声が聞こえた。ここにいるみんなが、ナチュラルなアホで良かったと心底おもった。

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