《MUMEI》
13
総理。

隣国では国で最も権力のある人を内閣総理大臣という。本人いわくそこから付いた名らしい。

たいそうな名だ。
そう思ったのが5年前。

ミトは臨時講師として母校に戻った。教職というものを、忍の仕事のひとつとしか認識していなかった頃。初めに任されたのは個人指導だった。つまり、集団生活という通常カリキュラム内では手に負えない問題児を叩き直すこと。

その問題児が、5年も経てば立派な忍だ。


2年ぶりに再会した教え子は、その無邪気な笑顔はそのままに、逞しく成長していた。肩幅から、手首までがっしりとしたように思う。

「卒業する時さ、初仕事が済んだら報告に来いって言ってたよね」
「それでわざわざ?」
「まーささやかな恩返しってね。」
総理がにやりと笑う。

「だからといって、泥だらけで応接用のソファに寝ますか」

「もー疲れちゃって」
「家で寝なさい」

「つれないなぁ。先生もうあがりでしょ。ここまで来たついでに初任給で飯おごってあげるよ」

「…お前…」

唐突な申し出に、危うく目から水が零れるところだった。俯いて顔を覆うとばしんと肩を叩かれる。

「せんせーヘタな泣き真似!」
「いやホントに泣きたいんですよ」

連れだって部屋を出る。

「懐かしー」
校庭を見下ろしながら、総理が呟いた。夕日に照らされ、あちらこちらが赤く染まっている。

教え子と歩く校舎は暖かかった。

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