《MUMEI》 混乱するわたしの耳に、あの伸びやかな彼の声が響いた。 「おいおい、ぼーっとしてんなよ〜。あぶねーな」 顔をあげると、前方に走り去っていく彼の姿があった。彼は顔のまえで合掌しながら、わたしにむかってウインクをする。 「俺、急ぐから!バイバ〜イ!」 ポカンとしているわたしを残して、彼は軽快な足取りで消えていった。そのすぐあとを、ひとりの黒いセルフレームのメガネをかけた青年が、追いかけていく。青年は一度チラリと、わたしの顔を見た。 レンズのむこう側から、同情するような目をむけたが、すぐに正面へ向き直り、ヨシナカさんっ!!とまえを走っていく男子生徒の背中に呼びかけながら、行ってしまった。 前へ |次へ |
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