《MUMEI》

森の中をぼく達は歩く。
誰も気付かない程度に寒気立つ。
峯さんが首を吊った樹で足を止めた。


「弟は此処で自殺した……ように殺された。」


「……峯さんは、双子だったんですよね。」


「母は兄の歌一が死んでから既に気が違っていたからね。鴉に啄まれた弟は顔も判別出来ないくらいで、身元の不明な死体として今も村に埋葬されている。」

鴉がおあ、おあ、と枝に留まって嗤っている。
風で揺さ振られた枝に人影を見た(勿論、気のせいである)。


「ぼくはまだ八つで、峯さんも若かった。」

意識的に会話に集中した。


「十五だった。」


「ぼくと同じ齢だ。」


「私は君の齢で母を殺した。十五の水上祭の最後の夜だ。」

しかし、峯さんの母君の死体は見つかっていない。

中指が一本だけだった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫