《MUMEI》
― 出会い ―
 王都にやってきて、その桁違いの大きさに驚きファースは目を輝かせていた。念願の世界最高峰の都、コレストシーク。ここにたどり着くまでに手に入れた情報によれば大陸一の大国であり、現在最も文化の発展している先進国だそうだ。閉鎖的な村では知り得なかった事実が旅の途中で新たな知識として身について行く。これほど嬉しいことはなかった。自分が目指していたのは王都にたどり着くことじゃなく、外の世界を知ること。その手っ取り早い方法が王都へ行くことだった。
 王都は思っていた通りの場所で、これまでの町とは異なり何もかも規格外。文明の進化は建造物の高さにより測られることが多いが、それはあながち間違ってはいないかも知れない。王都の中央にそびえ立つ時計塔は英知の結晶と言える。周辺に建てられているシュトラーブルク宮殿、ウォーデン大聖堂と比べてもその高さは群を抜いていている。都全体が大きな芸術作品のようにも思える此処に、こうして立っていることに喜びを隠しきれない。
 田舎者丸出しにきょろきょろと辺りを見回すファースは感嘆の声を上げ、足を軽快に進めていく。覚えたての情報が正しいのか、いろいろと活用しつつ街の探索に専念する。情報と言うのは王都の人は金銭的な余裕から心が広いという他の町での噂で、好奇心で道行く人に声をかけてみた。
 「おーいっ」
 手を挙げ近づいてくるファースに女性は立ち止まり、見たことの無い男に呼び止められたことで不思議そうな顔をした。
 「なんですか、どこかでお会いしましたっけ」
 「いや、そう言うわけじゃないんだが一つ聞きたいことがあるんだ、いいか」
 「・・内容によりますが、出来る範囲でお答えするわ」
 困惑顔をしながらもファースの突然の訪問を快く引き受けてくれた女性は何ですの、と言う風に首をかしげて待っていた。ファースの印象はあまり悪く受け取られなかった様子だった。どうやら広い心の持ち主だったらしく、噂の信憑性が強まる。ファースは女性を試そうとする。
 「それじゃあ遠慮なく・・・このあと、一緒に飯でも食べにいかないか」
 「・・・・デートのお誘いだったのね、いいわ。丁度お昼時ですし一緒に昼食としましょうか。ですけれどそれならそうと言っていただければよろしいのに」
 可愛い動物でも見たかのように微笑む女性は実験ともしらず楽しそうにしている。自分が街角でナンパされたことが嬉しかったようだ。
 「当然、あんたのオゴリだぜ」とファースは釘をさす様に人差し指を立て、実験の難易度をさらに高くした。全額負担と聞き顔を固まらす女性だったが、しばらくの逡巡の末ぎこちない笑いを浮かべ首を縦に振った。
 「わ、わかりましたわ。その程度のことでしたら構いませんわ」

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