《MUMEI》 「ありぇ?トリスたんはこゆびとなの?」 くるみはそう言うと俺の腕から降りてトリスタンの足下に駆け寄っていった。 「”こ ゆ び と 〜”…あぁ、モン・コパン(彼氏[仏])…フロインドゥ(彼氏[独])ね」 「うん、ラブラブラヴァーなの、あのね〜」 くるみはトリスタンの顔を覗き込みながらしゃがむように促すと、コソコソ話をするように耳の側で何かを耳打ちしていた。 『あのねトリスたん、こゆびとはね毎日チュッチュしてしゅきしゅきって言うんだよ〜♪だからにいちゃのこゆびとはアキラしゃんなの』 それを聞くとトリスタンも珍しく何か考えるような顔をして「そうだね…」と言ってアキラに向き直ると「ヴゼットゥ トレ シャルマン(あなたとってもチャーミングね)」と言ってアキラの両頬にキスをしていた。 された当のアキラは顔を真っ赤にして、突然された慣れない挨拶に戸惑っていた。 「あー!おりぇにもね♪毎日アキラしゃんチュッチュしてくれるもん♪うきゃ!アキラしゃんとおりぇ、こゆびとみたい♪」 そう言うとくるみは嬉しそうに両手で顔をはさみ、くねくねとまるでお遊戯のように踊っていた。 そういえば、どうも最近あきらが私に構ってくれないと思っていたが、どうやらくるみの方に構いっきりになっているようだった。 日本人というのはどうも夫婦生活より親子の生活を重視しがちなのか、こっちに来てくれないので寂しいばかりになってしまう。 母さんも昔から仕事に夢中で、本当は親父が好きなのかどうか分からないし…。 俺はアキラとの生活をどうすればいいんだか、だんだん分からなくなってきていた。 「あきらしゃ〜ん♪」 「ありがとう、くるみちゃん」 くるみが甘えながらアキラに抱きつくと、アキラは優しくくるみを抱き上げ、愛おしそうに頬ずりをしていた。 (あぁ…そうか) アキラから俺に来るのを待つのではなく、俺からアキラに甘えてみればいいんじゃないだろうか? 前へ |次へ |
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