《MUMEI》
左隣の引越し
卒業式の翌日は、快晴だった。


(左隣、誰か来てるのか?)


何の予定もなくのんびりしながら、俺は左隣の騒音を聞き流していた。


しばらくして


ピンポーン


「はい」

「…あら」


ドアを開けた俺が見たのは


知らない中年の男女と


左隣の大学生だった。


「…あの?」

「あ、うちの息子が、お世話になりました」


しばらく俺の顔を見て固まっていた中年女性


大学生の母親は、そう言って菓子折を俺に差し出した。


(そうか、こいつも卒業だったのか)


「どうも」


俺は頭を下げながら、それを受け取った。


「じゃあ、失礼します」


三人は、揃って頭を下げると、アパートを出ていった。


この時


俺は、特に気付かなかった。


大学生の荷物が、四年間過ごしたにしては、少なかった事に。


それから


大学生と、その両親が駐車場で、俺のよく知る人物と話していた事に。


(また誰か入るのかな…)


俺は、ただ、のんびりとそう思っていた。


それから、後日、祐と葛西先輩と


『祐也から花束無くて寂しがってた』と祐が言っていた安藤先輩の引越しの手伝いをした。

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