《MUMEI》
乙女柊からの電話
《ゆ、祐也、やっぱり一緒に行かない?》

「行かない」


俺は、その夜も、卒業式後から何度目かになる柊からの誘いの電話を断っていた。


(希先輩との旅行に俺が行けるわけないだろ)


柊は、希先輩から旅行に誘われたのだ。


《じゃあ、志貴も誘って》

「その場合、拓磨もついてくるぞ」


確信は無いが、確率はかなり高かった。


(あいつは志貴が絡むと野生の勘が働くし)


《で、でも…》

「お前がヘタレだから、希先輩が誘ってくれたんだろう?」

《や、やっぱり、そういう誘いかな?》

「嫌なのか?」

《と、とんでもない! 俺も、そろそろかなって…》


(きっと柊のそういう態度に希先輩が気付いたんだろうな)


だから、あの真面目な希先輩が、柊を一泊二日の旅行に誘ったのだろう。


「希先輩の勇気、無駄にするなよ。しっかりヤッてこい」

《ヤッ…祐也って下ネタ関係あっさり言うよね》


(そういえば、真司にも言われたな)


「とにかく、希先輩に恥をかかせるなよ」

《…そんな事したら…大人達に殺されるから…

頑張ります》


柊の声はかなり震えていた。

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