《MUMEI》

この河原に蛍が生息している事は前から知ってはいた。

けれど

見に来る‥

という事までは考えた事は無かったから。

だから

珠季からメールが来た時──

僕は分からなかったんだ。

「ぁ‥‥‥」

有り難う──

そう言おうとしたんだけど。

『声出すなよ‥?』

珠季がそう言っていたのを思い出して

言葉を飲み込んだ。

有り難うを言う代わりに──

僕は

彼女をそっと抱き寄せた。

そうして

光を見つめていた。

都市の夜景を見るよりも

この景色を見る方が

ずっと楽しいと思った。

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