《MUMEI》

貴士の目線が、言わんとしている事を察したように、老婆は言った。


「そう…。ワシは旦那様の忠告を無視して、その子を産んだ。
誰も出入りしない、地下の一角にある暗く狭い部屋でな。」


「そんな…」


その時、若き日の老婆は一体どんな気持ちだったのか…


同情の言葉すら出てこず、貴士は言葉に詰まった。


「ワシは、その子をユウマと名付けた。
旦那様の名前を一文字変えただけの名じゃ。

ユウマを誰にも気付かれる事無く、育てるのは大変だった。

ワシは母乳が出なかったため、屋敷の人間の目を盗んでは、それに変わるミルクを買っては与え

乳離れしてからも、また人の目を盗んで、食物を与えた。


まるで、泥棒の気持ちじゃったよ。


じゃが、人生そう上手くいくもんじゃないね…。


ユウマが言葉を漸く話せるようになった年、その存在が旦那様に知られてしもうたのじゃ。」

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