《MUMEI》

風の音と

せせらぎと。

蝉の声。

後は

何も聞こえない。

そして

闇の中で舞う光──。

全てが

夢のように僕には思えた。

或いは

異世界。

とにかく──

非日常的な空間に僕らはいて‥

そこで

ひと時を過ごしている──

そんな感覚。

「シズル」

声を出すなと言っていた張本人が

話し掛けてきた。

勿論

囁き声ではあったんだけれど。

「運良かったな、アタシら」

「ぇ‥?」

「いっつも見れる訳じゃねーからさ、今日見れるかどうかも分かんなかったんだけど──」

「君の勘が冴えていた、という事だね」

「バッ‥ちげーよっ」

褒められると

否定せずにはいられないらしい。

苦笑していたら

軽く肩を小突かれた。

横を見ると

珠季が照れくさそうに

頬を膨らませているのが分かった。

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